書籍「米国人博士、大阪で主婦になる。」の感想をまとめました。
この本は、アメリカ人のキャリア女性が日本人と結婚し、日本の大阪で送る生活で感じたことが書かれたエッセイです。
2015年刊行と少し前の本ですが、良く見るYouTubeチャンネルで薦めていたので読みました。
なお原著「The Good Shufu」(Tracy Slater)アメリカではベストセラー本になっています。
米国人博士、大阪で主婦になる。 あらすじと感想
米国人女性のトレイシーはボストンで研究者としての道を歩んでいましたが、社会人MBAの講師として来日した際、講座の生徒だったタクと出会って恋に落ちます。
日米を行き来する超遠距離恋愛を続けた後、トレイシーはボストンでの生活と研究者の道を手放し、タクと結婚して大阪で主婦として暮らす事を選びます。
タクとの暮らしでは、タクの父親とも交流します。英語と慣れない日本語で意思疎通を取って交流を重ね、義母はすでに他界していて義父は一人暮らしのため、たびたび3人で夕食を共にします。
やがて、義父が病に倒れてしまい、主婦のトレイシーがおもに世話を行うことになります。
それまで子供を持ちたいという考えがなかったトレイシーでしたが、タクとの子ともを熱望するようになり、不妊治療も行います・・・
感想
よくある「日本と海外の文化の違いに対する驚き」といった類のものと思って読み始めたのですが、後半は予想しない展開で、読後感動的な気持ちになりました。
のちに夫となるタクと出会ってから恋人になるまでの様子や、結婚して日本での生活を始めるまでは、まあ予想内というか、それほどの驚きはありませんでした。(トレイシーは日本自体には興味は全くなく、ただタクが日本人だったから日本での暮らしを選んだ、というのは印象的でした)
著者はユダヤ人家庭に生まれ育っており、ユダヤ人家族の雰囲気が垣間見られた点は新鮮でした。
トレイシーの両親や周りの人は、経済的成功や社会的成功を目指していて向上心が高く、高い地位の人が多いようです。また、家庭内は子供への愛情格差があって荒れ気味な時期があったり、トレイシーの父親が厳格な人で笑顔をほとんど見せなかったとのことなので、トレイシーはある意味安定した愛のようなものにちょっと餓えてたのかなという感じがしました。
そんなトレイシーは、タクとの結婚を選ぶことで、米国的な男女平等の考えからは程遠い「主婦」という存在になります。
タクの育った家庭は、金銭的な成功や名誉よりも、一緒に囲む食卓など家族で過ごす時間を何より大事にしていて、タクも同様の考えでした。
義父は無口な人でしたが、トレイシーが料理を提供すると、毎回笑顔で「トレイシー、サンキュー」(確かそんなようなセリフ)と言ってくれて、それがトレイシーにとっては、とても印象的なことだったのです(ただ共に過ごすことを喜んでくれた、という感じだと思います)
終盤、トレイシーは病に倒れた義父を介護したり、病院にたびたび見舞いに行きますが、それすらもトレイシーにとっては一切義務感はなく、「大切な人を世話する喜び」を感じて、絆というものを感じるのです。
普通に考えると、結婚のために自分が積み上げたキャリアを中断し、おまけに義理家族の介護をしなければならない状況、となると、ネガティブなこととして捉える人もいるのではないかと思うのですが、それが日本の家族観とは全く異なる家庭で育ったトレイシーにとっては、逆に喜びになった、というのがなんとも(良い意味で)すごいことだなと思ったのです。
考えさせられておすすめの本なので、ぜひ手にとってみて下さい。