「車輪の下」あらすじ|ヘルマンヘッセの自伝的物語

2021年1月29日

シュヴァルツヴァルトの風景

ヘルマンヘッセ「車輪の下」のあらすじをネタバレで短めに結末までまとめました。

「車輪の下」は、ドイツに暮らす少年・ハンスが周囲の期待に応えて神学校に進むものの、勉強漬けの日々で疲弊して押し潰されてしまう話です。

若者へのおすすめ本とされていますが、むしろ大人が読むべき本だと思います。

車輪の下 概要

車輪の下について短く辞書にまとめられていたので転載します

車輪の下 Unterm Rad

ドイツの詩人、作家H.ヘッセの小説。1906年刊。感受性の強い少年ハンス・ギーベンラートは、詰め込み主義の画一的な神学校教育に耐えられず反抗的になり家に帰されるが、そこでも適応する場を見出しえず、傷心をいだいて川におぼれ死ぬ。抒情味が濃いが、子供の心を踏みにじる教育のあり方を批判した自伝的発展小説。

(ブリタニカ国際大百科事典 電子辞書対応小項目版 より引用)

1906年というと日本では明治後期にあたります。100年以上前の小説ですが、何だか現代にも通ずる話ですね。

車輪の下の詳しいあらすじ

1. 受験で勉強漬けの日々

南ドイツのシュヴァルツヴァルトの町の商店の息子・ハンス・ギーベンラートは、神童として周りから特別視されていた。

当時、優秀だが裕福でない家の子は、国費で勉強できる神学校に入り将来は牧師か教師になるのが決まった道で、ハンスも神学校を目指して勉強浸けの日々を送って、州の試験で2番という優秀な成績で合格を果たした。

2. 合格して休暇を得るもまた勉強の日々

受験を終えたハンスは、神学校が始まるまで7週間の休みを得た。季節は夏本番で、周囲には青空と色鮮やかな花々など美しい自然が広がっていた。

初日、ハンスは朝から川に繰り出し、大好きだった魚釣りや川泳ぎをして自由な時間を満喫した。

しかし、翌日には町の牧師から予習を勧められ、さらに校長の指導も加わり、ふたたび勉強ばかりの日々になった。ハンスはやせて頭痛もして顔色も悪かった。

※当時、神学校への入学年齢は15才位

3. 神学校での寄宿舎生活

マウルブロン大修道院

9月になると、ハンスは故郷を離れマウルブロン大修道院の神学校での寄宿生活を始めた。

1・2か月過ぎた頃、ハンスは同室の同級生・ハイルナーと親しくなった。ハイルナーは詩が好きで勉強に不熱心な生徒だった。

しばらくして、ハイルナーが同級生とけんか騒ぎを起こして問題児扱いされ始めたので、ハンスは彼と距離を置いた。しかし年明けに起きた同級生の池での事故死を境に、再び交流を持つようになった。

4. 成績が下がる

ハイルナーの影響でハンスの成績は下がり、当初はハンスに期待をかけていた校長も冷淡な態度になった。

やがてハンスとハイルナーは周りから浮いた存在となり、ハンスは以前の頭痛を再発し、神経衰弱でめまいを起こすようになっていた。

そんな中、締め付けの厳しい神学校での生活に嫌気が差していたハイルナーが脱走騒ぎを起こし、退学処分となった。

ハンスの憂鬱さは増し、体調が悪化し医者に神経病と診断され、夏休み直前、授業中に倒れ、療養のため学校を去った。

5. 故郷に戻って再出発

闇夜と月

故郷に戻ったハンスは数か月静養したもののなかなか良くならず、あの世を思うこともあった。近所の店の親戚の娘・エンマに恋をしたが、遊ばれただけで苦いものだった。

やがて父親の勧めと、幼ななじみのアウグストが機械工見習いになっていた事もあり、ハンスも職人に弟子入りした。初めは抵抗があったが、手を動かして物を作ることに楽しさを感じるようになった。(ただし体力がなく、すぐに疲れた)

ようやく今後への道を見出し始めたように見えたハンスだったが、週末、初任給を得たアウグストのおごりで飲みに行き、酔って夜フラフラで帰る途中、川に落ち息絶えた。

おわり

■ 考察

結末は事故だったのか

結末は事故のように書かれていますが、酔いに任せて、以前から思っていた道を選んだとも取れます。

タイトルの "車輪の下" の意味は?

神学校の校長は、成績が下がっているハンスを心配し、「ちゃんと勉強するよう約束してくれ」と言った上で、

疲れきってしまわないようにすることだね。そうでないと車輪の下じきになるからね

と声をかけます。

文脈的にこれは、「社会の仕組みの犠牲になる」というような意味合いだと受けとれると思います。

何が言いたいのか

「車輪の下」がヘッセの自伝的物語であることは広く知られていて、この物語ではヘッセ自身の少年時代が、ハンスとハイルナー2人を分身として表されています。

ヘッセの経歴

将来の夢は詩人だったが家が代々神父だったため神学校に入学した。しかし勉強漬けの厳しい生活に耐えられず学校を脱走してしまった。

学校をやめた後は、職人や書店の店員になり、やがて本のヒットで作家になった。

少年時代のヘッセの中には、周囲の期待に応えて勉強を頑張る自分(ハンス)と、詩が好きで自由を好む自分(ハイルナー)がいて、2つの要素が近づいたり遠ざかったりしながらも、学校では詩が好きな自分を消さざるをえず、バランスが取れなくなってしまった、ということを本作品で表現したのだと思います。

少年時代のヘッセ自身も物語のハンス同様、神学校への進学は周りの期待に応えるために必死にやっていたことだったのです。

 

後書きにも解説がありますが、ヘッセ自身は母親をはじめ周囲の人の支えがあり、出直して自分の道を開拓することができましたが、物語の中のハンスは早くに母親を亡くしていたため、彼を受け入れて支えてくれる存在がいず、悲しい結末を迎えた、と理解できます。

このことから、「子供が健全に育つには父性と母性両方が必要なんだ」ということもメッセージの一つだと思います。(父母が揃ってるってことではなく、厳しく発破をかける人と、守って受け入れてくれる人、という意味)

■ 感想

感想

100年以上前に書かれた小説ですが、21世紀の今でも共感できる物語です。

子供が、自分の希望を抑えて周囲の期待に応えることの方を頑張ってしまい、やがて自分の人生を生きている気がせず、生きる気力を失ってしまう。

子供の立場の人は、同じような事態に自分が直面した/している場合どうすればいいんだろう‥?と考えてしまうと思いますが、これは大人が子供を大切にしていないのがいけないと思います。(後書きにも同じようなことが書かれていてる。子供をゆがめてしまったのは大人の責任)

そういう点で、この本は大人の方が読んだ方が良い本だと思います。

美しい自然

文中には随所に近代ドイツの美しい自然が描写されていて、現地に行ってみたいと思わされるのもこの本の良い所です。

主人公の出身地のシュヴァルツヴァルトはドイツ語で"黒い森"の意味で、以下の自然の生きものが描写されています。

・魚:ウグイ、ヤナギバエ、コイ、フナ、ハゼ

・木:ボダイ樹、モミ、ハンノキ、ハシバミ、落葉松

・花:ビロウドマウズイカ、ミソハギ、アカバナ属、ジキタリス、エニシダ、ミネズホウ、タネツケバナ、センノウ、サルビア、松虫草、エゾギク、キイチゴ、コケモモ

「車輪の下」の本

「車輪の下」を読むには、紙の書籍以外にオーディブルもあります。

新潮社版の文庫は昭和26年初版で、百版以上を重ねています。

(2007年初版の光文社版もあり、そちらのタイトルは「車輪の下で」となっています)

オーディブル

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月会費は1500円で、30日の無料お試し期間があり、「車輪の下」も聴くことができます。

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ヘッセのプロフィール

ヘッセ  Hesse, Hermann
生 1877.7.2 カルブ
没 1962.8.9 モンタニョーラ

ドイツの詩人、小説家。牧師の息子に生れ、神学校に学んだが脱走。機械工を経てテュービンゲンの書店に勤め、詩作に励んだ。レーナウやノバーリスを思わせる詩風であったが、1900年スイスのバーゼルに移ってから小説を書きはじめた。04年『ペーター・カーメンチント』Peter Camenzindで成功を収め、ボーデン湖畔に住み、『車輪の下』Unterm Rad(1906)を書く。インド旅行ののち、12年ベルンに移住。19年以降ルガーノ湖畔のモンタニョーラに定住し、23年スイス国籍を得た。主著に『デミアン』Demian(19)、『荒野の狼』Der Steppenwolf(27)、未来小説『ガラス玉演戯』Das Glasperlenspiel(43)など。46年ノーベル文学賞受賞。

(ブリタニカ国際大百科事典 電子辞書対応小項目版 より引用)

訳者の高橋健二さんは、ドイツへ渡りヘッセを訪ね交流していました。ヘッセの思い出の地を訪ねる紀行本には当時のエピソードが書かれていて、ヘッセの人となりが分かり面白かったです。

日本のファンが送った手紙にヘッセが丁寧な返事をくれて、文通してくれたというエピソードもあり、ノーベル賞受賞というすごい方なのにお高く留まらない人柄だったようです。

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