宮尾登美子の小説「櫂(かい)」を紹介します。
宮尾登美子さんは、大河ドラマ「篤姫」の原作「天璋院篤姫」の著者として有名な小説家で、1973年にこの「櫂」で太宰治賞を受賞し、小説家としてのスタートを切っています。
「櫂」あらすじ
「櫂」は大正・昭和初期の高知を舞台に、主人公女性・喜和が、口入れ屋の夫・岩伍を支える日々を描いた物語です。(1972年出版)
主人公の喜和は、自ら見初めた岩伍との結婚を果たし、気が利かないながらも堅気ではない商売をする夫を支えます。
時が経ち二人の子供が成長し、長男が肺病になり大変な中、夫は人気の娘義太夫・巴吉との間に子をなし、喜和は絶望の淵に立たされます。
夫は愛人とけじめをつけ二度と会わず、喜和は愛人の子である綾子を育てることになりますが、ある時から娘に愛を感じるようになり、娘も夫より喜和になつくようになります‥
感想
ストーリーの面白さに加え、かつての高知の下町の文化が色濃く反映され独特な言葉で綴られていること、女衒という特殊な世界の様子が伝わってくる点が魅力です。
著者は高知出身で、この話は自伝的物語でもありますが、一部事実と違う部分もあり、全部が実際の話というわけではないようです。
文体が美しく、描き方が秀逸
描き方が秀逸です。(特に、愛人の巴吉太夫をはじめて見た時の喜和の心情)
花街の様子や”義太夫”という文化もこの小説で初めて知り、新鮮でした。
(「義太夫」は浄瑠璃の一種で、「娘義太夫」は現代でいう「会いに行けるアイドル」のようなものとして人気を博していた)
時代の違いに驚き
わずか100年で、こんなに生活が変わるんだと思いました。例えば家電がないので一つ一つの家事に人の手間が必要であることが分かります。
文章や単語は、調べないと分からない単語が沢山出てきて(たとえば衣替えの場面で”帷子(かたびら)”という単語が出てきたが、着物関係の言葉だとは分かっても意味までははっきりとは知らない)
女性が男性に従う価値観も当然の時代で、女性が生きづらい時代だったんだろうと思いました。
特殊な世界の様子が分かる
・遊郭という特殊な世界の有り様が分かります。親がどういう理由で子供を手放すのかなど
喜和は女性を売る仕事は辞めてほしがっているが、夫の岩伍は人助けの面があり意義のある仕事だと思っていて、そこに後々すれ違いと亀裂が生じます。
(岩伍は人助けとは言いながらも、どう考えても身を売ることを軽くみているように思えました。そこに男女の断絶がある)
・展開が面白い。はじめ、喜和は愛人の子を育てることに拒否反応を示していたのに、娘は喜和になつき、喜和も女の子を育てる楽しさを見出し、手放せないほどになる。
「櫂」の動画を見るには
「櫂」は1999年に松たか子さん主演でNHKでドラマ化されています。
物語の世界を映像でも見たいと思いレンタル店の在庫や動画配信を探しましたが、残念ながら取り扱いがありませんでした。(TSUTAYAの宅配レンタルでなら取り扱いがあります)
主演が松たか子さん、夫役が仲村トオルさん、娘が井上真央さん(子役時代)、他にも加賀まりこさんら豪華な面々が登場します。