「櫂」あらすじ|宮尾登美子の自伝的小説

2023年10月1日

宮尾登美子の小説「櫂(かい)」を紹介します。

宮尾登美子は、大河ドラマ「篤姫」の原作「天璋院篤姫」の著者として有名な小説家で、1973年に「櫂」で太宰治賞を受賞し、小説家としてのスタートを切っています。

再放送情報:2025年2月12日~毎週水曜日 19:00-20:29 全3回 NHKBS

「櫂」あらすじ

1972年出版。大正~昭和初期の高知が舞台の物語で、著者の自伝的物語でもあります。(主人公・喜和の娘のモデルが著者)

 

土佐の少女・小笠原喜和は、神社の祭りの宮相撲の観戦で活躍する、博打打ちの青年・富田岩伍に一目惚れし、熱烈にアプローチをして結婚を果たします。

喜和は、気が利かないながらも堅気ではない商売をする夫を支え、金銭的に不安定な生活な中でも、長男もなし、幸せな日々を送ります。

しかしある時から岩伍は、大料亭・陽暉楼の旦那や、紹介業を営む大貞の影響で、口入れ屋の商売(遊郭に芸妓を紹介する商売)に手を出します。

1921年には緑町に引っ越して「富田屋」を開業し、使用人を雇うようになり、喜和は女将の立場になります。

喜和は商売に反対していましたが、岩伍は聞く耳を持ちませんでした。

 

時が経ち、成長した長男が肺病にかかり大変な中、夫は人気の娘義太夫・巴吉を囲い、子をなします。ショックを受けた喜和は、絶望の淵に立たされます。

このことが明るみに出ると、夫はけじめをつけ愛人とは二度と会わず、愛人が産んだ子・綾子は喜和が育てることになります。

全く気が進まない喜和でしたが、ある時から娘に愛を感じるようになり、娘も夫より喜和になつくようになります‥

 

感想

ストーリーの面白さに加え、文体が美しく描き方が秀逸

喜和ははじめは、愛人の子を育てることに拒否反応を示していたが、娘は喜和に懐き、喜和も女の子を育てる楽しさを見出し、手放せないほどになるという展開で、その意外な展開がとても面白かったです。

一方で、当時はどうしようも出来ない、男性優位の暮らしの歯がゆさも感じさせられました。

また、ストーリーの面白さに加え、かつての高知の下町の文化が独特な言葉で色濃く綴られているのも魅力的です。特に、愛人の巴吉太夫をはじめて見た時の喜和の心情の描き方が秀逸で印象的でした。

時代の違いに驚き

当時はもちろん家電のような便利なものはなく、すべての家事に人の手が必要であったり、また貧困のレベルも現代とは全く異なり、食べる物にも事欠く者も多く、男衆や女中として出自不明の流れ者を雇っていたり、わずか100年でこんなに生活が変わるんだと思いました。

また、調べないと理解できない文章や単語が登場し(たとえば衣替えの場面で出て来た”帷子(かたびら)”という単語が、着物関係の言葉だとは分かっても意味までははっきりとは知らない)、今使わなくなった言葉は、こうして文章として残されていなかったら忘れられてしまうのか、などと思いました。

特殊な世界の様子が分かる

”義太夫”とうい文化は、この小説で初めて詳しく知り、新鮮でした。これは浄瑠璃の一種で、「娘義太夫」は現代でいう会いに行けるアイドルのようなものとして人気を博していました。

また、花街や遊郭や女衒という特殊な世界の有り様が分かります。親がどういう理由で子供を手放すのかなど。

喜和は女性を売る仕事は辞めて欲しいと考えているが、夫の岩伍は人助けの面があり意義のある仕事だと捉えていて、そこに後々すれ違いと亀裂が生じます。

(岩伍は人助けとは言いながらも、身を売ることを軽くみているように思え、そこに男女の断絶があるように感じました)

 

著者は高知出身で、この小説は自伝的物語でもありますが(喜和は著者の母親、娘の綾子が著者本人がモデル)、一部創作も混じっているそうです。

↓ エッセイ「生きてゆく力」には、作者の幼少期のエピソードが書かれているので、併せて読むと面白いです。

「櫂」の動画を見るには

「櫂」は1999年にNHKでドラマ化されていて、主演が松たか子、夫役が仲村トオル、娘が井上真央(子役時代)、他にも加賀まりこら豪華な面々が登場します。

物語の世界を映像でも見たいと思って動画配信を探しましたが、この1999年版は取り扱いがないようです。視聴したい場合は、DVDを購入するか、TSUTAYAの宅配レンタルするかになります。

TSUTAYA DISCAS 公式サイト

 

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みずのと

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