カミュ「異邦人」あらすじを考察&解説|"太陽のせい" の意味

2020年5月6日

アルベールカミュの「異邦人」のあらすじを簡単にネタバレでまとめました。

「異邦人」は、アルジェリアに暮らす青年ムルソーが、友人のトラブルに巻き込まれ銃で男をあやめてしまうが、その少しの前に、母の葬式で涙を流さず翌日に女と遊んでいたことから、計画的犯罪を企てた凶悪な人間として裁かれるという話です。

以下に、物語のあらすじと解説("太陽のせい"の意味合いや、主人公がサイコパスかについて)を書きました。また「異邦人」を試し読みでできる電子書籍サイト一覧も作成しました。

 

異邦人 あらすじ(事件が起きるまで)

アルジェリアの海

アルジェリアの首都・アルジェの輸出関連の会社で働く青年・ムルソーは、老人ホームで暮らす母が亡くなったため葬式に行った。その時の彼は涙を流すこともなく冷静に見えた。

葬式の翌日(週末の土曜)、ムルソーは泳ぎに行った海で、好意を持っていた以前の同僚・マリイと偶然再会し、海で戯れコメディー映画を見た後、部屋で関係を持った。

しばらく後の日曜、ムルソーは、友人・レエモンの誘いで、レエモンの知人のヴィラをマリイと共に訪れた。ムルソーはレエモンと共にヴィラの近くの海岸を散歩中、前日レエモンに絡んできたアラビア人の男の一団と遭遇した。

(レエモンは自分を騙した元彼女に暴力をふるっていた。アラビア人の一団は、仕返しに来た彼女の兄とその仲間だった。一団はレエモンとムルソー達を憑けて来たと思われる)

男たちはナイフでレエモンの腕に怪我を負わせ、その場を去った。レエモンは医者に手当をしてもらい大事には至らなかった。

しかしその後、ムルソーが一人で砂浜を歩いている時、再び一団の一人を前方に発見した。ムルソーは酷暑が体に堪えていて、照り付ける太陽から逃れて泉のある方へ行きたかったので、引き返さずそのまま進んだ。

すると男が刀を持ち構えた。ムルソーは汗がまぶたに流れ、太陽と刃で反射した光のちらつき以外見えなくなった。ムルソーはレエモンから預かっていたピストルで男を撃ち、命を奪ってしまう。

 

異邦人 あらすじ(捕まった後)

逮捕されたムルソーは、警察で弁護士や判事から尋問を受けた。

判事は、ムルソーが5発撃ったうち、1発目と残り4発のあいだに間があったことに疑問を呈した。(ムルソーは答えなかった)

判事に「神を信じるか」と聞かれ、ムルソーが「信じない」と答えると、判事は神を信じることを強要しヒステリックになった。ムルソーは疲れたので、相手の言うことを肯定するふりをした。

裁判の日、他に話題がなく事件が新聞に取り上げられた影響で、法廷に大勢の人が集まった。

母親の葬式で涙を見せなかった事、そのとき母の年齢を聞かれて分からなかった事、葬式の翌日に普通の日のように女と遊んでいたことなどから、ムルソーは冷酷で凶悪な人間で、予め犯罪を計画したというレッテルが貼られた。

言い足すことがないか求められたムルソーは「あらかじめ命を奪おうと意図していたわけではない」と言った。裁判長に動機を問われると、「それは太陽のせいだ」と言った。廷内に笑い声があがった。

弁護側も、ムルソーの日頃の行い(勤勉で人に愛される人間である等)を挙げ、犯行は衝動的なものだったと主張したが、極刑が下された。

刑の日を待つ中、ムルソーは司祭の面会を何度も拒絶し、信仰心を求める司祭に対して信念をこき下ろし、「私は私の人生に自信を持っている」とキレて罵った。

怒りで精根尽きて眠り、目が覚めた後、ムルソーは「自分は幸福だったし今も幸福である」と感じた。

 

異邦人 考察・感想

「太陽のせい」の意味

空と太陽

① 強い日差による、汗・太陽の眩しさ・刀の反射光の眩しさで、視界がなくなった。なので相手に刃物で襲いかかられないよう銃を撃った、という意味合い

② 太陽がもたらす激しい暑さから動けない状況を打開したくて銃を撃った という意味合い

上記2つが考えられますが、ひっくるめて不快な状態を打開するために、という印象がします。

ムルソーの人物像

本に書かれているムルソーの人物を表すエピソードと考察とを書きます。

・母親の葬式で涙を流さず、母親の年齢を聞かれてとっさに答えられなかった

・レエモンがムルソーの母の永眠を励ますつもりで「やけになるな」と声をかけた時、励まされていることを理解出来なかった。(落ち込んでいなかったので)

→弁護士から、母親の葬式での態度について言及された際、ムルソーは「肉体的な要求がよく感情の邪魔をするたちだ」「埋葬の時はひどく疲れていて眠かった」と説明しています。

私も体調の変化で気分が上下しやすいので何となく分かります。また、日本でも超高齢で大往生だと、安らかな式になる場合がありますよね。いずれにしろ、"涙を流さない=親の死について何とも思っていない"という考えは、決めつけのようにも感じます。

・ガールフレンドに「私を愛してるか」と聞かれて「恐らく愛していないと思われる」と答えた

→私は「まだ交際しはじめたばかりで愛が深まってなかったから、ばか正直に答えたのかな?」と捉えていましたが(マリイはムルソーのそういう変さも含めて好きなようですが)、本の解説には「ムルソーにとっては抽象的なものが無意味なのだ」とありました。

ムルソーが一般的に良しとされる対応をしない面があることはわかりますが、飄々としている人な感じがして、(銃を撃ったことを除いて)少し親近感を感じます。

ムルソーはサイコパス?

主人公を理解できない・わからないという人は、"ムルソーはサイコパスでは"と思うかもしれませんが、サイコパスの特徴は、"口達者で平然と嘘をついて他人を操ろうとする"、"結果至上主義"などとあるので、ムルソーはサイコパスではないと思います。

もしムルソーがサイコパスなら、葬式では泣くふりをして、マリイには"愛してる"と言い、刑を軽くするために必死に嘘をついて弁明すると思います。

(サイコパスでなく別の精神的特徴はあるかもしれないですが)

「異邦人」の意味

”異邦人”という単語の辞書的な意味は「外国人・異国人」です。

外国人は、文化が違う国の人なので、常識や感覚がその国の人とは異なる場合があります。

日本人が海外に行く例で考えると、女性が髪を隠す文化の国で髪を隠さなかったり、撮影禁止の建物(神聖な場所や政府機関など)の写真を撮ったら、たとえ本人に悪気がなくても、わるい人として扱われることもあり得ます。

本書のタイトルは、そのような「外国人が違う国に行った時のように、周りと感覚が違うゆえ、後ろ指さされる」という意味合いを込めているのだと思います。

同調圧力というと日本の話な気がしますが、フランス人のカミュもテーマにしたということは、当時のアルジェリアないしはフランスで、世間常識から外れるべきでないという感覚があったのでしょうね。

(異邦人が刊行された1940年前半は戦争中で、植民地支配問題もあり、また作者カミュ自身が複雑な生い立ちだったことから、色々考えて沢山のことを感じていたのだと考えます)

作品の裏側

本の解説には以下のことも書かれています。(この本は解説も面白い)

・ムルソーにはモデルがいた(カミュの知人男性)

・「異邦人」より前の習作で、ムルソーの前身と思われる"メルソー"なる主人公が描かれていた

・"ムルソー"という名前は、フランス語の"死"と"海"の合成語

・カミュが「異邦人」の英語版に寄せた序文(作者の作品への思いが分かります)

その他

小説冒頭の "きょう、ママンが死んだ" の一文が有名ですが、クイーンのボヘミアンラプソディは「異邦人」から影響を受けている説があります。

 

■まとめ

細やかな自然の変化を敏感に感じ取り、母のこと深く愛していたし、亡くならない方が良かったとは思っていたムルソーですが、一般的な考え方からすると理解できず意味不明ともいえる行動や言動をする彼は、まるで異邦人のような扱いを受け、事件は衝動的なものだったのに、計画的な犯行と決めつけられ極刑が下される、という話でした。

 

「異邦人」原作

「異邦人」はカミュが29才前後(1942年)の時のデビュー作です。文庫本の頁数は127ページと少なめで、同じカミュの「ペスト」のように難解ではなく、最後までさらっと読めて面白いでので是非読んでみて欲しいです。

カミュのプロフィールは「ペストのあらすじ」の記事の最後に紹介しています。

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