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「ひねもすのたり日記」|ちばてつやさんの半生記マンガ

2021年7月31日

ちばてつやさんのエッセイ漫画「ひねもすのたり日記」をネタバレで簡単に紹介します。

ちばてつやさんは”明日のジョー”で有名な巨匠漫画家で、「ひねもすのたり日記」は現在連載中のエッセイ漫画です。(とても面白くて、NHKの朝ドラ向きなのではと思っています)

ひねもすのたり日記 あらすじ

ひねもすのたり日記 1巻 満州引き揚げ

1939年生まれのちばさんは、生まれて間もなく家族で日本統治下の満州に渡り、父親が働く印刷会社の社宅で育ちました。

1945年8月、日本は太平洋戦争に敗戦し、満州にいた日本人は一転して追われる立場になります。

一家は会社の社宅の人々とともに、内戦が行われる中、逃げ隠れながら港を目指し歩き続けました。(食べ物にありつけず空腹が続き、極寒の中野外で夜を過ごし、力尽きる人も続出)

翌年の夏、ちばさん達は命からがら引揚げ船の出る葫蘆島(ころとう)港に辿り着き、家族全員での日本帰国を果たします。

1巻は、6才前後の頃のちばさんの体験が中心の話で、食料難でペットの鶏のピヨちゃんを鍋にされてしまった話や、逃避行の中、父親の親友の中国人・徐さんが匿ってくれたこと、屋根裏に潜伏していた時、弟達に物語の絵を描いて楽しませたことなどが描かれています。

 感想

帰国しおばあさんと対面する場面がとても印象的で、登場人物たちの感情が伝わって来てこちらも嬉しくなりもらい泣きしてしまいました。

戦前を知らない者からすると、今の日本の領土以外に日本が統治して日本人が暮らしていた場所があったことについて実感が伴いませんが、この漫画で人々がどのような暮らしを送っていたのか少し分かりました。

ひねもすのたり日記 2巻 漫画好きな少年時代

2巻は、小学校入学から高校生で漫画家デビューするまでのことが描かれています。

引き揚げ後、ちばさん一家は、千葉の海辺の祖母の家で1年間暮らした後、東京の下町に引っ越します。

東京の小学校では、漫画好きなお寺の子・木内くんと親友になり、放課後は木内君の家で漫画を読んだり描いたりの日々を送りました。

ちばさんの母親が漫画嫌いだったため、ちばさんは隠れて漫画を描き続けます。

やがて高校生になり、ちばさんは貸し漫画の漫画を描いて漫画家としての一歩を踏み出します。

それまでしていたアルバイトでは失敗だらけだったので、漫画でお金を得られたことが天にも昇る気持ちでした。

2巻には、他界してしまった弟・あきおさんのエピソードも描かれています。

 感想

少年時代の千葉さんが、のんびり屋で少しのび太っぽい感じなのが親しみが持て、巨匠なのに全然偉ぶった感じがないんだなと思いました。

てつや少年が漫画ではじめてお金を得た話は、爽快感があって、嬉しさがとても伝わって来ました。

また、お母さんの肝っ玉母ちゃんぷりが圧巻です。満州で爆撃をよけながら、日本での生活に備えて千葉さんに九九を唱えさせたり(そのおかげで日本の小学校で先生に褒められた)、晩年もちばさんの作品を検閲?していたエピソードが面白かったです。

ひねもすのたり日記 3巻 漫画家デビュー

3巻では、ちばさんが漫画家デビューして間もない頃の話が描かれています。

ちばさんは忙しい漫画家のアシスタントを経た後、連載を持つようになりますが、少年漫画に空きがなく、少女漫画の連載をスタートさせます。

男4人兄弟で育ったちばさんは、少女漫画で好まれる展開(悲しい展開だったりいじめられてもひたすら耐える)が理解できず、ストーリー作りに苦労していたそうです。

インドア派だったので漫画家生活は快適だったのですが、日にも当たらず家に籠りきりの日々が続いた上、ストーリー作りに悩みつづけた結果、精神不調をきたし、漫画家をやめようと決意するまでになってしまいました。

しかし、初めて少年漫画の連載の話(「ちかいの魔球」)を受け、担当編集者に促されて野球のルールを理解するためにキャッチボールをしたことで一気に精神不調のモヤが晴れ、元気を取り戻します。

(精神不調の原因は極端な運動不足だと判明し、それ以来運動好きになる)

 感想

少女漫画で主人公がいじめられる筋書に腹が立って、編集者と決めていたあらすじとは違う筋書きにしてしまい(主人公の少女がいじめっ子に反撃してとっちめる)、それが却って好評で沢山のファンレターが届いた、というエピソードがとても面白かったです。

ちばさんの描く女の子や女の人が、他の男性漫画家と違ってとてもかわいくて素敵なのは、少女漫画家時代を経ていたからなのだと分かりました。

あと、体を動かさないことがいかに体に良くないかということが分かりました。確かにウォーキング程度でも体を動かすとスッキリしますよね

ひねもすのたり日記 4巻 全盛期と現在の生活

4巻では、練馬に引っ越した後の、漫画家として全盛期の時の様子から現在までのことが書かれています。

人気漫画家になったちばさんは、沢山のアシスタントさんと共に漫画を制作するようになります。

 

その他1~4巻どの巻にも、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、さいとうたかを、水木しげるなど数々の巨匠漫画家仲間とのエピソードや、現在通っている病院での出来事、学長を務める芸術大学での話も書かれていて、最近のちば先生の生活が分かります。

ひねもすのたり日記は現在5巻まで刊行されています

ひねもすのたり日記 全体の感想

この漫画を手に取ったきっかけは、このブログでも紹介している「大地の子」で、満州開拓民のことを知って、満州引き揚げのエピソードが書かれているという「ひねもすのたり日記」をに興味を持ちました。

ちばさんは引き揚げ当時まだ6才で、日本帰国までの道のりは旅をしているみたいで楽しさもあったということから、漫画の内容は楽しさがあって読み進めやすいのですが、それでも現代からは想像できない道のりを経て来たのだなと感じさせられます。

ちばさんの作品は男性向けが多くてブームになった世代も私より少し上なので、今まで一度も読んだことがありませんでしたが、この「ひねもすのたり日記」はファンかどうかに関係なく楽しめる漫画です。

内容の面白さに加え、登場人物の書き分けや、表情が豊かで生き生きしていて魅力的だったり、細かい背景や風景の描写などが格段に上手いです。鶏1羽にしても、本物の鶏の姿が正確に描かれているように感じました。

(最近の漫画には、内容は面白くても絵は簡素という作品もあったりするので、画力の格段の違いを感じました)

家族愛も伝わってきて暖かい気持ちになれて、なぜだか何度何度も読み返してしまう面白さがあります。

この漫画は現在もビックコミックで連載中で、毎号数ページですが、それでも80代で漫画を描き続けて読者を楽しませ続けていることがすごいと思います。

ちばてつや追想短編集

関連作品も紹介します。

「ちばてつや追想短編集」は「ひねもすのたり日記」より前に描かれた短編集で、こちらも読みごたえがあっておすすめです。

お屋敷に缶詰にされての執筆時に悪ふざけが原因で大怪我を負った時のエピソード「トモガキ」や、「のたり松太郎」誕生秘話などが描かれています。

 

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みずのと

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